相談例・解決例
2015年05月27日更新 欠陥住宅コラム
これまでの欠陥住宅の歴史
1 「欠陥住宅」というコトバ
「欠陥住宅」というコトバが、社会的にも注目されるようになったきっかけは、平成7年(1995年)1月17日午前5時46分に発生した阪神淡路大震災を抜きにしては考えられません。中村幸安という明治大学(当時)の建築学の先生に『人を殺さない住宅』という告発書があります。この震災では老朽住宅の倒壊も勿論ありましたが、新築に近い住宅が手抜き工事の故に倒壊して、下敷きになったりあるいは逃げ遅れて火災の犠牲になった例が多数あったからです。手抜き工事で多くの犠牲者が発生したという認識は、マスコミの精力的な取り組みもあってか、特に関西地域では裁判所も含めてかなり行き渡ったように思います。
2 阪神淡路大震災以前
阪神淡路大震災以前は、住宅の欠陥を主張する人とは、欠陥を主張することによって建築代金を踏み倒そうとするクレーマーという見方が多くの裁判官も含めて一般的だったように思えます。弁護士の目から見ても、住宅の欠陥を主張するにしても参考になるような文献は殆どなく、また協力してもらえる建築士を探すことは至難の業でした。昭和の時代、建築をめぐる法律書といえば大手建設会社が発行した”口うるさいクレーマーにどのように対応すべきか”といった文献ばかりで、実に孤立無援の戦い、結果として無念の敗北ばかりだったと言わざるを得なかったのです。
そのような中で、細々とした取り組みもありました。まず最初に登場するのは、昭和47年4月千葉県我孫子市で発生した日本住宅公団のベランダ落下事件です。この事件では昭和44年に住宅管理組合連絡協議会を結成して瑕疵問題をめぐって公団との間で団体交渉を行うなどし、昭和51年に「マンション問題を考える会」(東京)に発展するのですが、この活動の中心を担ったのが先の中村幸安氏、田中峯子弁護士などです。他方で関西では上野勝代氏など住居学専攻の研究者による建売住宅の消費者問題への取り組みが行われており、また昭和54年には澤田和也弁護士らによって戸建住宅の欠陥問題への実務的な取り組みを軸にした「欠陥住宅を正す会」が大阪で設立されています。しかしながら事件的な関心は呼んだにしても、広範な広がりを持ったとは言い難く、一般的な裁判官のクレーマー的な偏見を覆すには至りませんでした。
3 阪神淡路大震災以後
阪神淡路大震災では膨大な被害が発生したことを契機に、日本弁護士連合会(日弁連)において平成7年6月から消費者委員会土地住宅部会での取り組みが始まりました。なぜなら住宅は本来衣食住のなかで最も基本となる消費商品であるからでした。
土地住宅部会では、日本では建築基準法には構造基準はあるが、実際に守られているかチェックする制度にほとんど実効性がないことが最大の問題点であるという共通認識にいたりました。そこで翌平成8年3月カリフォルニア州政府とロサンゼルス市の建築局における検査官(Inspector)制度を視察し、また欠陥住宅110番を全国一斉に実施しました(その結果は同年11月に『今日本の住宅が危ない』として出版しています)。さらに、同年12月には日弁連が主導して「欠陥住宅被害全国連絡協議会(全国ネット)」を設立しました。日弁連は全ての弁護士の強制加入団体であり業界側の弁護士も会員ですから、消費者側に立った日弁連としての活動は困難だからです。全国ネットの設立以後、全国各地に地域ネットが設立されながら活発な活動が継続されており、いよいよ来年には20周年を迎えます。平成12年に設立された「建築Gメンの会」(初代理事長中村幸安氏)も活発な活動が続いています。
4 これまでの取り組み
土地住宅部会は、平成7年以来今日まで引き続いて活動していますが、国土交通省や建築士諸団体、業界団体との頻繁な意見交換と協議、また建築基準法改正や住宅の品質確保法(品確法)制定に際しての立法提言などを行ってきました。品確法をめぐって特筆すべきは、瑕疵担保責任期間の問題です。かつての業者側で作成された請負契約書では、請負人が責任を負うべき期間は木造で1年、コンクリート造でも2年に短縮されていました。そこで構造上の欠陥に気付いても1年や2年で発現することの方が希で、欠陥に気付いたときには瑕疵担保期間が経過しており、断念せざるを得ないことが多かったのです。この点品確法では、重要な構造部分について10年以下に短縮することはできないことになったのです。この点も土地住宅部会や全国ネットの活動抜きには実現しなかったと考えられます。
また土地住宅部会は様々な出版活動も行ってきました(前記以外に『家づくり安心ガイド』岩波書店など)。なかでも特筆すべきは、『消費者のための家づくりモデル約款』(民事法研究会)です。これまで業界団体が作った旧四会連合協定約款が最も権威ある契約ひな形でしたが、そこには1日につき1000分の1(年36.5%)の遅延損害金の定めがあり、長期化した裁判の結果敗訴となれば著しく高額の遅延損害金を支払われなければならなくなる危険性があったのです。紛争が発生した場合に裁判ではなく国道交通省または各県にある建設紛争審査会で解決しなければならないという定めもあったのですが、審査会には消費者側委員が存在せず、公平性に疑問がありました。この本の作成過程によって、現在の旧四会連合協定約款は改められました。
土地住宅部会の別働隊ともいえる全国ネットは、毎年2回以上全国持ち回りで活発に大会を開催しており、昨年下関で開催した大会は27回を数え、孤立無援の訴訟活動になりがちな弁護士相互間での活発な情報交換の場を提供しています。また全国ネットで出版を継続している『欠陥住宅判例集』(民事法研究会)も既に第6集まで出ています。さらにまた鑑定書を作成する建築士にとっての研修機会、情報交換の場を提供しています。かつて弁護士にとっては、過小な弁護士人口を背景に困難な技術訴訟となる欠陥住宅訴訟を厭う傾向が大であり、必要不可欠な建築専門家の協力体制が存在せず、欠陥住宅の被害者は相談の行き場がないのが実状に近かったのです。かくして全国ネットは、弁護士と建築士と消費者の出会いの場も提供しているのです。
5 福岡ネットとして
全国ネットが全国各地で開催してきたのは、開催地においてそれぞれ地域ネットの設立をバックアップするためでした。平成9年7月5日第3回目となる全国ネットの大会を福岡で開催しました。その後平成12年11月25日全国ネットの第10回大会を北九州市で開催し、そのときに九州ネット設立が承認されました。以後翌年から毎年1回のペースで九州各県を持ち回りで講演会を開催し、その間全国ネットも再度福岡市と北九州市で開催されています。
しかしながら、日常的な相談活動は実に低調であり、ここ数年九州県内での研究会活動も行っていませんでしたから、有名無実化していたことは否めません。
この度、人員はすっかり若返り、新たに欠陥住宅ふくおかネットしを立ち上げることになりました。今後は日弁連土地住宅部会や全国ネットとも連携をとりながら、相談体制も充実して消費者のニーズに応えられる体制づくりを進めていく所存です。
ご支援の程よろしくお願いします。