弁護士の是枝(これえだ)です
念願の新築住宅に、欠陥や瑕疵(契約不適合)があったら、困りますよね
修理してくれればよいですが、業者によっては顧客へ誠実に対応しないこともありますし、業者が倒産・廃業してしまうと、顧客もどうしようもなくなりそうです
そこで、新築住宅について、通常、業者と住宅瑕疵担保責任保険法人の間で住宅瑕疵担保責任保険を締結して、物件引渡時、注文住宅であれば建設業者から発注者へ、建売住宅・分譲住宅であれば宅地建物取引業者から売主へ、保険証券を交付することになっています
新築住宅の取引は高額になり、住宅瑕疵担保責任保険は、アパート賃貸経営目的の購入でも対象となりますし、建設業者・宅地建物取引業者にとっても資力確保義務違反は処罰対象となりますから、住宅瑕疵担保責任保険について、一度確認しておいてもよいでしょう
住宅瑕疵担保履行法および住まいの安心総合支援サイト(国土交通省ウェブサイト)
なお、住宅瑕疵担保責任保険は、住宅品質確保法(2000年4月1日施行)を前提として、住宅瑕疵担保履行法(資力確保義務部分につき2009年10月1日施行)に基づくものです
また、住宅瑕疵担保履行法は、比較的新しい法律ですが、最近改正されており、住宅紛争処理制度における任意保険の対象追加や消滅時効の完成猶予効果の付与等があります
【0 住宅瑕疵担保責任保険の概要】
・対象となる取引は、宅地建物取引業者以外の顧客と、「建設業者」または「宅地建物取引業者」との間の取引(住宅瑕疵担保履行法2条6項2号ロ・7項2号ロ)
・対象となる取引や瑕疵担保責任は、「新築住宅」の建築または売買に関する「特定住宅建設瑕疵担保責任」(後述)
・建設業者(注文住宅の場合)または宅地建物取引業者(建売住宅・分譲住宅の場合)と、住宅瑕疵担保責任保険法人との間で締結する(住宅瑕疵担保履行法3条2項・11条2項)
・建設業者または宅地建物取引業者から、顧客へ、保険証券等を交付する(住宅瑕疵担保履行法3条2項・11条2項)
・建設業者または宅地建物取引業者から、住宅瑕疵担保責任保険法人へ、保険料を支払う(住宅瑕疵担保履行法2条6項1号・7項1号)
・建設業者または宅地建物取引業者が顧客へ特定住宅建設瑕疵担保責任を履行した場合、建設業者または宅地建物取引業者から住宅瑕疵担保責任保険法人へ保険金を請求できる(住宅瑕疵担保履行法2条6項2号イ・7項2号イ)
・建設業者または宅地建物取引業者が顧客へ特定住宅建設瑕疵担保責任が相当の期間を経過しても履行しない場合、顧客から住宅瑕疵担保責任保険法人へ保険金を直接請求できる(住宅瑕疵担保履行法2条6項2号ロ・7項2号ロ)
・保険金額は1戸につき2000万円以上(住宅瑕疵担保履行法2条6項3号・7項3号)
・保険期間は物件引渡から10年間以上(住宅瑕疵担保履行法2条6項4号・7項4号)
・原則として、変更不可・解除不可(住宅瑕疵担保履行法2条6項5号・7項5号)
・填補請求時:填補率80%・免責1戸10万円等(施行規則1条1号等)
・直接請求時:故意免責なし・填補率100%・免責1戸10万円等(施行規則1条2号等)
・資力確保措置は保険ではなく供託でもよい(住宅瑕疵担保履行法3条1項等)
・資力確保措置について業者から行政庁への届出必要(住宅瑕疵担保履行法4条等)
・資力確保措置は強制で違反に罰則あり(住宅瑕疵担保履行法5条、13条、40条)
【1 対象は「新築住宅」】
住宅瑕疵担保責任保険の対象は、「新築住宅」に限られます
「住宅」……
(住宅瑕疵担保履行法2条1項、住宅品質確保法2条1項)
人の居住の用に供する家屋又は家屋の部分(人の居住の用以外の用に供する家屋の部分との共用に供する部分を含む。)
「新築住宅」……
(住宅瑕疵担保履行法2条1項、住宅品質確保法2条2項)
新たに建設された住宅で、まだ人の居住の用に供したことのないもの(建設工事の完了の日から起算して一年を経過したものを除く。)
既存住宅売買やリフォーム工事は、新築住宅に関するものではないため、「住宅瑕疵担保責任保険」(住宅瑕疵担保履行法19条1号・強制保険)の対象となっていません
(既存住宅売買瑕疵担保責任保険やリフォーム工事瑕疵担保責任保険がありますが、これらは、住宅瑕疵担保履行法19条2号にあたるものであり、任意保険です)
人の居住の用に供する家屋等であり、契約時点で未居住等であれば、顧客が自ら居住する必要はありませんので、居住用賃貸アパートや投資用マンションも対象になります
なお、住宅瑕疵担保責任保険の保険金請求の事案ではなく、買主が売主へ瑕疵担保責任を追及した事案で、新築住宅の売買契約の直前に既に売主と第三者との間で賃貸借契約が締結されていた等の事情の下、住宅品質確保法2条2項の「新築住宅」にあたらないとした裁判例として、東京地判平成28年3月30日(westlaw)があります
【2 対象は「特定住宅瑕疵担保責任」】
住宅瑕疵担保責任保険の対象は、「特定住宅瑕疵担保責任」に限られます
対象となる瑕疵担保責任の範囲(国土交通省ウェブサイト内の画像へのリンク)
「瑕疵」……
(住宅瑕疵担保履行法2条2項、住宅品質確保法2条5項)
種類又は品質に関して契約の内容に適合しない状態
「特定住宅瑕疵担保責任」……
(住宅瑕疵担保履行法2条5項、住宅品質確保法94条1項・95条1項)
住宅のうち構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分として政令で定めるものの瑕疵(構造耐力又は雨水の浸入に影響のないものを除く。)に関する瑕疵担保責任
「住宅のうち構造耐力上主要な部分」……
(住宅品質確保法施行令5条1項)
住宅の基礎、基礎ぐい、壁、柱、小屋組、土台、斜材(筋かい、方づえ、火打材その他これらに類するものをいう。)、床版、屋根版又は横架材(はり、けたその他これらに類するものをいう。)で、当該住宅の自重若しくは積載荷重、積雪、風圧、土圧若しくは水圧又は地震その他の震動若しくは衝撃を支えるもの
「住宅のうち雨水の浸入を防止する部分」……
(住宅品質確保法施行令5条2項)
一 住宅の屋根若しくは外壁又はこれらの開口部に設ける戸、わくその他の建具
二 雨水を排除するため住宅に設ける排水管のうち、当該住宅の屋根若しくは外壁の内部又は屋内にある部分
「構造耐力又は雨水の浸入に影響のないものを除く」……
(解釈等について法令の規定なし)
ところで、住宅の構造耐力上主要な部分等について瑕疵があっても、構造耐力又は雨水の浸入に影響のないものについては、特定住宅瑕疵担保責任の対象には含まれません
では、「構造耐力又は雨水の浸入に影響のないものを除く」とは、具体的にどのようなものが考えられるでしょうか
また、訴訟において、住宅の構造耐力上主要な部分等の瑕疵が、構造耐力又は雨水の浸入に影響があるかどうかについては、どちらが主張立証責任を負うでしょうか
この点について、施行令等の下位法令や裁判例は特にないようです
立法担当者としては、「構造耐力又は雨水の浸入に影響のないものを除く」とは、約定の設計図書どおりではないという瑕疵であるが、構造耐力性や雨水の浸入防止効果に関係ないことが明らかである場合(例えば柱や梁の色が当初の約束と異なる場合等)について、念頭に置いたうえで、建設業者等が主張立証責任を負うと考えているようです
(伊藤滋夫編著『逐条解説住宅品質確保促進法』P236~237、有斐閣、1999)
【3 対象は宅建業者以外の顧客と「建設業者」や「宅地建物取引業者」との間の取引】
住宅瑕疵担保責任保険の対象は、顧客が「建設業者」(住宅瑕疵担保履行法2条3項)へ「新築住宅」の建築を発注した場合や、顧客が「宅地建物取引業者」(住宅瑕疵担保履行法2条4項、金融機関も含む)から新築住宅を購入した場合です
ところで、宅建業者がエンドユーザへ新築分譲マンションや新築戸建を転売することを前提に、宅建業者自身が建設業者へ新築住宅の建築を発注した場合や、宅建業者自身が他の宅建業者から新築住宅を購入した場合、法的にはどうなるでしょうか
これらの場合、住宅品質確保法上と住宅瑕疵担保履行法で上と取り扱いに差異があり、宅建業者から、建設業者や他の宅建業者に対し、住宅品質確保法に基づく瑕疵担保責任の追及をすることは可能ですが、住宅瑕疵担保履行法に基づく住宅瑕疵担保責任保険の対象からは除外されています(住宅瑕疵担保履行法2条6項2号ロ・7項2号ロ参照)
したがって、上記の場合においては、建設業者や他の宅建業者と住宅瑕疵担保責任保険法人との間で住宅瑕疵担保責任保険を締結する必要は、ありません
【4 保険金の直接請求】
「建設業者が相当の期間を経過してもなお当該特定住宅建設瑕疵担保責任を履行しないとき」には、顧客から住宅瑕疵担保責任保険法人へ保険金の支払を直接請求することができます(住宅瑕疵担保履行法2条6項2号ロ・7項2号ロ)
直接請求することができる場合、業者の悪意または重過失があっても免責されませんし、10万円等の免責金額はあるものの、填補率は80%ではなく100%となりますので(施行規則1条2号等)、直接請求の要件を満たすかどうかは、重要です
では、「建設業者が相当の期間を経過してもなお当該特定住宅建設瑕疵担保責任を履行しないとき」とは、具体的にいかなる状況を指すのでしょうか
立法担当者としては、業者の破産等により瑕疵担保責任の履行がなされないとき、行方不明により事実上履行が不可能であるときや、何度請求しても履行に応じないとき等が考えられる、としているようです
(国土交通省『逐条解説住宅瑕疵担保履行法』P44、ぎょうせい、2007)
令和5年4月21日
文責 弁護士 是枝秀幸(これえだ・ひでゆき)